「うちは見込残業なんで、追加の残業代は無いです」
どんなことでも「認識のずれ」は怖いのですが、中でも上位で怖いのは、
【たしかに払ったはずのお金を『払われていない』と言われた】 ときです。
支払い記録があるからヘーキ…かと思いきや、給与の世界では本当に未払い扱いになることがあります。
色んなパターンがあるのですが、今回は
【見込残業代を正しい方法で設定しないと、残業代を払ったことにならない場合がある】話です。
未払残業代の精算は一人当たり数百万円になることもよくあり、会社には大ダメージです。
この記事では、【見込残業代の適切な設定の仕方】について解説します。
本来、給与は1分単位で計算して支給しなければいけません。しかし…あの人は176時間23分、この人は181時間10分、こっちは165時間52分・・・と1分単位で計算するのはメンドくさいですよね。あるいは、「年間の人件費は1億円!」と固定して予算化した方が、経営計画を立てやすいことも事実です。
そこで、「毎月〇時間の残業を見込んで、〇〇円固定で支払いますよ」・・・という支払い方をします。
これを見込残業代と言ったり、固定残業代と言ったりします。
複雑な給与計算から解放されるため、多くの会社が導入しています。
深夜労働や休日労働の見込を設定することも可能です。
「固定残業代」という言葉が独り歩きしているせいか
「ある程度の残業代を毎月固定で払えば、追加の残業代は一切支給しなくていい」という誤解をよく見ます。
しかし、10時間分の見込残業代しか支払っていないのに30時間残業している場合には、20時間分は正しく計算して
支払わなければなりません。
じゃあ、ウチの会社は見込残業代100時間分払っとくわ!!!
これなら絶対に追加で払わないでいいだろ!!!
・・・という会社もたまに見かけます。
ただ・・・こういった支払い方は無効になる(見込残業代として認められない)可能性があります。
見込残業代が認められるための条件は2つあります。専門用語抜きに話せば、
・何時間分の見込残業代であるかが明確であること。
・具体的に、金額がいくらであるかが明確であること。
これらを明らかにしておくことです。
具体的には【基本給30万円、ただし30時間分の見込残業代として、55,831円を含む】
というような記載を、労働条件通知書や給与改定通知等でする必要があります。
逆に、どんな場合が認められないのでしょうか?
会社が長年それでやっていた…という場合には要注意です。今からでもいいので見直しを検討しましょう!
パターン① 総支給額30万円!見込残業は10万円! 何時間分の残業代か??それは・・・ヒミツ・・・
パターン② 総支給額30万円!見込残業は30時間分 7万円!
・・・だが、翌月は、見込残業30時間分 5万円!精勤手当3万円!
パターン③ 総支給額60万円!見込残業は100時間分 25万円
最後のパターン③は何時間分いくら・・・が明確ですが、それでも無効です。
100時間の残業は過労死ラインで、最初から過労死になるような働き方を見込んでいる契約は、公序良俗違反で無効とされるからです。実際には、80時間の見込残業代を無効とした判例があります。
むかしむかしあるところに
「うちは見込残業なんで、追加の残業代は無いです」
という会社がありました。
いくら働いても給与が変わらないので従業員はダラダラ働くようになっていましたし、経営側はそんな姿を見て
「ダラダラやっているのに残業代は払えないヨォ!」と思っていました。原因はいくつかあって
・そもそも労働時間を正しく計算できていなかった
・時間が無尽蔵にあるものと考え、必要な業務の切り分けができていなかった
・残業代を青天井に払うと経営が安定しなかった
・・・などが主な理由でした。そこで
・勤怠管理システムを入れて、打刻の習慣をつけること
・まずは労働時間の上限を仮で決めて、業務量が見合っているのか検討すること
・フレックスタイムを導入して、労働時間そのものを減少させること
・・・の3本を支援しました。
サラッと書いていますが、どれも半年~1年ずつかけての意識・行動改革です。
結果、時間に対する従業員の意識は高まり、労働時間も減少しました。
「見込を超過した分は本当に頑張った分なんだ」と経営者も納得し、残業代を支払うようになりました。
その過程では色んな困難がありましたし、見込残業を適切に運用したことで起こった弊害もあります。
それはまた別のおはなし。
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【用語解説】
固定残業代(見込み残業)
残業代